All Tomorrow’s Girls

It's hard to stay mad, when there's so much beauty in the world. ━American Beauty

夢中になっているエッセイ

久し振りに、持ち歩いているだけで気分が高揚するような文庫本に出会った。裏表紙には『上質のユーモアと、見識という名の背骨を通した文章は、戦後日本に初めて登場した本格的な「エッセイ」だった』とある。インテリでスマートなカバー装画及びカット絵も著者伊丹十三氏によるもの。文章は大変読み易くすくすいすいと読み進めることができるのだが、著者のけた外れの美意識と薀蓄に何度も唸った──初刊が昭和40年(1965)ということを意識して読むからかも知れない。はてダにある若い人の書評をざざっと読むと、当たり前のことを長々と書いて厭味しか感じないというのがあって世代の差を感じた──というか、唸るしかない。
パリの話が特に感動したので、書き留めておこう。

ミエコ・タカシマといえば先日サン・ローランに引き抜かれた、日本のファッションモデルのトップクラス。ヴォーグのパリ・コレクションの第一頁を飾って(大変な名誉なんだよ、これは)忽ち世界の一流にのし上ったのだが、そのミエコによれば、サン・ローランは、一着の服を作るのに、多い時には二十六回仮縫したそうだ。そうかねえ、二十六回ねえ。どこをどう直すのか知らんが偉いもんだよ、これは。二十六回という回数が偉いんじゃないよ。二十何回も修正して、まだ欠点を見つけ出せる目の厳しさ、イメージの確かさ。これは、やっぱり世界の超一流だよ。         (pp.119-120より)

ヨーロッパ退屈日記 (新潮文庫)

ヨーロッパ退屈日記 (新潮文庫)