All Tomorrow’s Girls

It's hard to stay mad, when there's so much beauty in the world. ━American Beauty

ニプレスの思い出

 先日、街でこれと同じワンピースを着た若い女性を見かけたのだが、胸の谷間バッチリでゆさゆさ揺れていたのでそこばかり見ていた。谷間女が私の横を通り過ぎた後、ふと「ニプレス」を思い出した。これは私が高校生の頃登場した商品で、モノがモノだけに、我々女子の間では当時かなり話題になった。現在は常盤薬品が販売している。(参照
 というわけで、ニプレスにまつわる高校生の時の話をしたい。
 私は演劇部の衣裳部長を担当していて、忙しくなると休み時間と放課後は学校の家庭科室でミシン掛け、寮に帰ってきたら机でひたすら手縫い、だから授業中は寝ている、といった生活状態になっていた。針仕事は本当に肩が凝り目が疲れる作業だったから。
 学校はカソリックだったため、毎年、クリスマス前となると学校を挙げて大掛かりなイベントを催し、そのメインが「イエスキリストの誕生劇」であった。当然、私の出番だ。
 舞台当日の私の神経は、大天使ガブリエルの羽とか袖のドレープとか、三人の賢者たちの王冠や分厚いマントの具合などに注がれていて、大部屋の羊飼い役の衣装なんてアイロンいらないし、といった差別をしていたのよ、実は。
 茶道室で役者に着替えてもらって、我々衣装部スタッフがチェックして、廊下から舞台に送り出すという作業をしていた時、出番を待っていた一人の羊飼いさんが(彼女はこの日の為にメガネを外しコンタクトをわざわざ新調した)、突然「この衣裳、乳首が透けるからやだ」などと言い出した。
 私「何で?ブラジャーしてないの?」彼女「うん。締め付けるのいやなの」彼女の胸部を見ると、全くイヤミなくらい"ある"。私への当て付けか?因みに羊飼いさんの衣装は、安物のポリエステル裏地で縫ったぺらぺらつるつるの代物なので、確かにブラなしだと乳首が透けて見える。
 そこでニプレスの登場と相成ったのだが、何故それが茶道室にあったのか、自分が衣裳代の予算から購入したのか、その辺の所は全く記憶がないのだが、とにかく2枚渡して彼女に貼ってもらった。ところが、彼女「足りない」私「なんで?」彼女「だって乳輪が隠れていない」私「どれ!」半分頭にきて、胸元から彼女の巨乳を覗くと本当に足りなかった。私「どうする。今貼ったのを剥がして2枚並べて貼り直す?でもそれじゃあ上がはみ出ちゃうね」彼女「もう一枚足して三角に貼るよ」
 羊飼いの分際で貴重なニプレスを6枚も使用するなんて…ぶつぶつと心の中で呟きながら、姿見で自分のいでたちに満足した彼女が、茶道室から舞台に向かって行くのを見送った。