All Tomorrow’s Girls

It's hard to stay mad, when there's so much beauty in the world. ━American Beauty

納豆の思い出

 40年近く前の記憶─
 その日の給食のおかずは納豆だった。パックに小分けされたものではなく、バットかなにかにどさっと入った納豆。それを保育園の先生が小さなお玉ですくって、ひとりひとりの弁当箱のご飯の上にのっけていく。ご飯と別々に食べたい園児には、お皿代わりにした弁当箱の蓋の上にのっけていく。
 家で出される納豆は豆が大粒で大嫌いだったが、給食に出る納豆は、ネギや大葉とともに細かく刻んであって食べやすくとても美味しかった。
 先生がバットから納豆をひとりひとりに分けて歩いていたら、終り頃に足りなくなってしまったらしく、一番最初に戻って、それぞれの弁当箱の納豆の小山から少しずつ取ってバットに戻していった。私は自分の席についてその様子を眺めていたのだけど、先生が私の前に立ったとき、「あら。混ぜてしまったの。」と仰ったので「え?」と思い自分の弁当箱を見るとご飯に納豆が混ぜ込んであった。好物を早く食べたくて、無意識に箸で納豆をかき混ぜてしまったらしい。傍らの箸の先が糸をひいていた。
 先生が全員に配り終わり、いただきますの号令でみんなが食べ始めても、私は胸が苦しくて味噌汁を飲むのが精一杯だった。他の子より、先生より、自分が納豆を多くとってしまったという思いで。その後自分はどうしたのかさっぱり思い出せない。