All Tomorrow’s Girls

It's hard to stay mad, when there's so much beauty in the world. ━American Beauty

今日、息子の授業参観へ行ってきた。
朝、玄関で息子に「今日授業参観に行くけど、どの授業がいいかな?」と尋ねると、「図工以外だったらどれでもいい。」と言うので、「どうして図工はだめなの?」と聞き返すと、面倒くさそうに「ああ。じゃあ、いいよ。」と、いってきますも言わずに登校してしまった。
だから、図工に決めた。


図工室に入ると、同じクラスの母親が一人だけいた。しばらく隣に並んでいたが、息子は背を向けてしゃがみ、桜の木の枝や他の材木が入った段ボール箱の中に手を突っ込んで、工作に使う木を選んでいた。
図工室では大きなテーブルにグループごとにまとまって作業をしていたのだが、息子の席はすぐに分かった。なぜなら、どの児童の前にも作りかけの大小様々な枝や木材、木工ボンドやカッターなどが置かれているのに、何もない一角があったからだ。
案の定、息子はやっと選んだ一本の枝を持ってその一角に座ろうとした直前、私に気付き焦った様子で、「なんで来たんだよ。」と小声で抗議しに来た。それには答えず私が「前半の1時間、一体何をやっていたの?」と睨むと、ばつが悪そうな顔をして先生のところへ並んだ。先生は生徒が持ち込んだ固い枝を注文通りに電動鋸で切っていた。
順番待ちの列に並んでいる息子の表情から、これから、自分が手にしている枝のどこを切ってもらうのか、何を作ればいいのか、何をすればいいのか、全く分かっていないことは明らかだった。スーツを着た私の背中に嫌な汗が流れる。
息子が先生に枝を見せながら切る場所を指定している。次の瞬間、息子が手にしていたのは厚さ1センチ程の輪切りの木だった。残った枝はどうするのか先生から尋ねられているのに、「いらない。」と言って、元の段ボール箱に戻してしまった。自分の席に輪切りの木をいったん置きに行き、それからまたふらふらと見本の工作を見に行ったり、段ボール箱を漁って別な枝を選んでまた先生に切ってもらおうと列に並んだ息子に、ついに私の方が耐えられなくなってしまった。息子に近づき、「切る場所をこことこことここと決めて先生に切ってもらったら一回で3個のパーツができるでしょ!どんどん時間がなくなるんだよ!」と耳打ちした。私のアルト声は息子の頭にも響いたらしく、その後先生に枝を何本かに分けて切ってもらっていた。
息子は自分のテーブルに小さな丸太を置いたり、積み木のように重ねたり、細い棒を添えてみたり、形を考えているのか単に材料を弄んでいるのか…。その間にも、作品が出来上がった児童がどんどん黒板の前に集まってくる。私は息子を急かすために、わざと側に立った。息子は、丸太の側面にドリルで小さな穴を開けてそこにジョイントを嵌めて繋ぐということに気が付かない。木の皮に直接ボンドをつけて接着しようとしたりしている。多分、私は息子の手元を険しい目つきで見つめていたのだろう、先生が近づいてきて「お母さんご心配しなくても…。この子は作るもののイメージが決まったら作業は早いですから。来週で完成させると思います。」と仰った。


図工の時間が終了し、息子がクラスメートと共に教室に走っていった後も、私はひとこと先生に話がしたくて残っていた。片付けが済んだ図工の男性教師は、私が口を開く前に「お母さんにあの子の彫った作品を見せたいので、どうぞこちらに来て下さい。」と仰り、階段を上がり体育館への渡り廊下を歩いて鍵がかかっている部屋へ通された。そこは、来月予定している学校の作品展用の児童の工作や絵画をしまっておいている場所だった。
「彼はね、彫刻の仕方を覚えるまではとても時間がかかったけど、いったん覚えたら集中して、細かく丁寧にきれいに出来るんです。ほら、こちらと比べると彫り方がいかに細かいか分かるでしょう?普通、ここまで細かくは彫らないですよ。」と、マーブリングした台紙に黒々と刷った息子の木版画を見せてくれた。
思いもかけず息子の木版画に感動したのと、初めて参観した図工の教師に、私の先程までの息子に対する苛立ちを見透かされていたこととが混じり合い、しばらく言葉が出なかった。