色覚に障害を抱えていて実際の緑色が分からないという男性が、自分の彼女の誕生日に彼女の好きな緑色の宝石のついたネックレスをプレゼントしたいと来店した時の話。
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この話を読んで思い出したことがある。
私が20代前半にアルバイトしていた店、それは日本に帰化された台湾人女性が経営する中華菓子の店だったのだが、開店から閉店までひとりで店番をしていると、自分の買い物がままならずちょっと困っていた。
ある日、当時高校生だった経営者の息子が、代わりに買い物に行って来てくれるというので、その時切実に欲しかったウォークマンのイヤフォンを頼んだ。プラスチック製ケースに入った、ビビットからパステル調まで色が豊富な種類だった。
そこで私は、
「こういう色。ラベンダー色を買ってきて」と、そばにあった雑誌かなにかで色見本を示し、お金を渡した。
しばらくしてから彼が家電店から帰ってきて、
「あったよ。ほら、これでしょう」と、袋から取り出したのは、ミント色だった。
私が驚いて、
「これミント色じゃない?ラベンダーって薄い紫色だよ」と話すと、彼が
「えっ?この色じゃないの?……実は俺、微妙な色が見えないんだ。特に赤と緑が区別できない色盲なんだ」
私はその告白に、(初めてのことに)動揺しながらも、
「これも可愛い色だから、私のウォークマンに合ってるよ」と言って、その場で開封してジャックに挿しこんでずっと使い続けた。
このことがあってから、その高校生の息子君とは親しくなり、たまに彼が学校の帰りに寄ったときは、よくおしゃべりをして過ごした。暇な店だったなあ。